■壁画■
 
 高校時代に所属していた美術部で描いた、その壁画を修復することにした。理由ときっかけはいくつかある。
 2002年7月にうつ病を発症し、三ヵ月余り会社を休職し、その後、会社復帰を二回試みたがうまくいかず、そしてその年の瀬にアパートの部屋の前に倒れていた、同じアパートに住む、肝硬変度八、加えてアルコール中毒の独居老人を助けたため、ショック状態となってなお症状を悪化させ、会社からは一年間の休職措置をとられた。そして医者からは、入院か実家での療養を薦められ、2002年3月、横浜を離れて広島県は福山市の実家へと戻り、静養に入った。
 四ヵ月のあいだ福山市の国立病院の精神科に通院した。しかし、むりやり薬を減らされるばかりでカウンセリングも何もなく、不信感がつのり、通院を止めた。そして弟の知人の紹介で、岡山市の心療内科専門の病院に通うこととなった。これが2003年7月はじめのことだった。
 この頃、米国の心療内科医の書いた、「『うつ』をやめれば楽になる」という本を読む機会があり、そのなかに「ばかげたことでもいいから、何かしらやってみる」という文面を見つけ、そしておなじ美術部に在籍していた友人からは、「福山にいるのなら、夜中にこっそりと、高校時代に描いた壁画でも直したら?」という一言があり、その二つのアドバイス? を罹っている医師に問うたところ、気分が高揚しているときには創造的な作業をしてみるのも良いと言われ、始めることとした。
 はじめ、四国八十八ケ所巡礼にでも行こうかと考えた。しかしそれはいつでもできるだろうことなので、福山にいる時にしかできない壁画の修復を選んだ。そしてこれは、誰もやろうとしないこと、誰もやりたがらないことへのささやかな挑戦なのかもしれない。けっして、「俺がやらねば誰がやる」という大言を吐くつもりはない。痴れ者の浅はかさと思ってもらえれば良い。
 つまるところこの作業は、壁画を直すための作業ではなく病気を治すための作業なのだ。
 
 学園への申請と折衝、資料蒐集、当時の部員への連絡、作業の方法と手順の決定、そして修復作業そのものと、やらなければならないことは山ほどあった。加えて作業にかかる費用は自己負担。塗料代と発電機のガソリン代は学園から出して頂いたが、それ以外はすべて手弁当。もちろん足代も飯代も自前である。そして作業期間は、2003年7月20日から会社の社内規定により休職期間の切れる、2004年1月20日までの六ヵ月間。
 これは、そのすべての記録である。
 
 
過去の記録と修復前の状態
 

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