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さして大きくもない流通センターの三階にある、事務室と更衣室に挟まれた、鰻の寝床のような間取りの給湯室のなかに、将棋の駒を打つ音がぱちりと響いた。暫く経ってから駒を指された男がふうむと深いため息をつき、腕組みをしていた両手を解いて膝の上に置き、 「参りました」と噛み締めながら口にし、向いに座るもう一人の男に軽く頭を下げた。 木製の貧弱なスツールを三つ並べた即席の将棋台で、白髪混じりの胡麻鬚を生やした飯島が、小さいながらも深い笑い声を交じらせて対面に座る橋本に声をかけた。 「あそこで攻めきれなかったのが後々まで響いたかね?」 橋本は、ちっと舌打ちをしながらも痩せ顔に苦笑いを浮かべ、逆鍔に被っていた制服帽を前鍔に被り直しながら、 「そっちはうまく飛車を退かせて受けていたし、こっちは持ち駒が足りなかったなあ」と返した。 どうだい、もう一番できるかい? と、冬用作業着の胸ポケットから煙草を取り出し、火を点しながら問いかける飯島に対し、橋本も同じようにジャンバーから煙草を取り出して火をつけ、もうそろそろ着く頃だろうと言いながら、静かに唸る換気扇の横に掛けられた小さな壁掛け時計に眼を遣った。 時刻は午後の七時を廻っていた。 四十分ほど前に、最終便の貨物コンテナ車が五キロほど手前のバイパス上で事故渋滞に巻き込まれ、予定よりも四、五十分ほど遅れると連絡が入っていた。この日の最終荷受け担当の二人は、皆が帰宅した後にその待ち時間を利用して、荷受けのプラットホームに設えられた待機所から喫煙を許されている給湯室へと移り、スツールを三つ並べて座を作り、将棋を一番、指し終えていた。この、待ち時間を使った将棋は荷受け遅延が発生した時の習慣ともなっている。 「いや、飯島さんは強いね。局面と板を良く見ている」と、橋本は煙草の煙りを換気扇のほうにふうと吹き出しながら感心し、将棋盤の上に乗っている駒を片づけ始めた。からからと駒の触れあう音が、狭い室内に、煙草の煙りと共に満ちる。 「四手か五手くらい前かな、橋本さんが4五に打った馬でそのまま攻められていたらどうなったか分からない」と、手を動かしながら飯島は謙遜気味に応えた。 二人はそれぞれの陣の駒を、将棋盤に添えられている小さな二つの箱に分け入れて蓋をした。この小さな駒入れは、二つに折り畳まれる将棋盤のくり抜かれた内側にぴったりと納まり、取り出されればそのまま手駒置きとして使えるようになっていた。いつ、誰が持って来たのかも分からず、だいぶ昔から給湯室の流し下の収納庫の隅に置かれていた。橋本はそれを一目見て良い造りの代物だと思い、入社歴にそれほど差のない飯島に声を掛け、待機時間を利用した将棋指しに興じていた。 二人は流しに置いた灰皿に煙草の灰を忙しなくはたきながら、しばらくさっきの番面を反芻した。こんな時に橋本は、飯島の記憶の確かさにいつも感心するのだった。将棋だけではない。荷受けや振り分け出荷時でも、受け出しのパレットや箱の数量の事細かを覚えながら作業を進めていた。 飯島は言う。脳のどこかにそれら専用の表のようなものができているんだ、と。 会社に二十年以上在籍している橋本は、飯島と組むときの作業がいちばん安心できると感じていた。運び出しや積み込みの数量確認は飯島に任せ、橋本はプラットホーム全体の安全と作業の進行状況だけに注意していれば良かった。 階下の搬入庫から大型ディーゼル車特有の、がなり立てるようなエンジン音が重く響いてきた。二人は顔を見合わせ、「お待ちかねのお客様だ」と言い、灰皿の灰を流しの床に置いているアッシュ・バケツに放り込んで蓋をし、換気扇を止めて給湯室の灯りを消した。 「今日はそんなに寒くないから楽だねえ」と飯島が橋本に声を掛けると、橋本は少しうなだれ気味に、 「俺はこんな程度の冷え込みでも辛いんだよな」と、自嘲気味に呟いた。 二人ともヘルメットや手袋などの細かな作業着を隣の事務室に置いていたので、そそくさと事務室に入り、身支度を整えた。部屋を出るとき橋本は、荷受け室に内線をかけようと電話に手を伸ばしたところ、その電話の内線電話の着信音が鳴り響いた。 橋本が受話器を取ると、荷受け室に常駐している立花の声が聞こえてきた。「遅れた最終便が到着しましたので、よろしくお願いします」と、電話の向こうから若々しい声で伝えてくる立花に、受話器を取った橋本は、「すぐ行きますのでよろしく」と、昇り調子の返事をして受話器を置いた。 二人はもういちど装具を整え、事務室のエアコンと灯りを消し、階下へと、荷受けのプラットホームへと降りていった。 二人は荷受けゲートに停車しているコンテナ車を見遣った。貨物船埠頭から直接やって来たコンテナのハッチを固めているロッキングアームには、これまたがっちりとワイヤーロックが掛けられている。 今日の最終受け入れの荷はショ糖の二十キロ袋と聞いていた。一番から四番まである荷受けゲートの四番ゲートに、四十フィートコンテナを搭載したトレーラーが停車していた。そのゲートのすぐ傍の太い柱、ゲートナンバーの架けられた太い柱の影では入社して四年目の立花が、コンテナ車のドライバーと共に、彼から渡された伝票とチェックリストとを見比べていた。立花は二人が降りて来たのを見ると軽く会釈し、 「お願いします」と声を掛けた。 飯島と橋本はコンテナ車のドライバーに、 「渋滞、大変だったでしょう。お疲れさまです」と声を掛け、フォークリフトの停車場へと足を運んだ。 停車場に来ると二人はヘルメットを被り、規定通りの安全点呼を行ったあと、フォークリフトを起動させた。飯島と橋本の二人が組む時には車両番号の奇数を橋本が、偶数を飯島が使うことにしていた。これは験担ぎだった。 ひと昔前のエンジン式やガス式のリフトと比べて電動式のリフトは、柔らかな起動音とともに滑らかな動きでコンテナのハッチへと詰め寄った。コンテナ車のドライバーは、ここでの最後の仕事とばかりにワイヤーカッターでワイヤーロックをぶった切り、ハッチを開けていた。 積み荷は事前に聞いた通り、ショ糖の二十キロ袋がラッピングされてパレットに山と詰まれ、そのパレットもコンテナにぎっちりと隙間なく積まれていた。 コンテナに山と詰め込まれたパレットを指定の荷受け場所へと埋めてゆく。電動フォークリフトは排気ガスを気にする必要はない。リフトを操る飯島と橋本は、お互いの取る軌道を予測し、タイミングを計り、最短ルートの移動距離とほとんど無駄のない動作でコンテナと荷受け場所とを往復していった。まったく同じ場所でお互いがすれ違った。そして荷受け場所に並べられてゆくパレットの前後左右は、人が通り抜けられるくらいの同じ間隔で保たれていた。 ドライバーを待機所へと案内した後、立花はリフト作業の邪魔にならない位置に立ち、荷受け場所でチェックリストとパレット数を確認していた。その、立花の姿をちらと見つめる飯島と橋本は、時々車上からお互い眼を合わた。そのたびに二人……特に橋本は、十年以上も前の出来事を思い返していた。 何ら特別な事故も起こさず、すべてのパレットをコンテナから追い出すのに四十分ほどかかったろうか。フォークリフトの待機所にリフトを収めた飯島と橋本の二人の作業の終了を見て取った立花は、待機所に居るドライバーの元へと作業終了の旨を告げにいった。待機所から出てきたドライバーは、予想外に速い作業に残念がる様子を見せながらも、首や肩を捻りつつ飯島と橋本の元に歩み寄り、落ち着いた態度でごくろうさまでしたと一言、被っている帽子を取って挨拶し、コンテナのゲートのロッキングアームをがっちり閉めたあと運転席に乗り込み、ゆっくりとプラットホームから出ていった。 三十過ぎくらいだろうそのドライバーの姿に好感を持ったのか、飯島は、 「渋滞待ちも何げに流して疲れも他人に見せない、なかなかいいやつじゃないか」と、口元に笑みを讃えながら呟いた。続いて立花も、 「先の事故は結構大きかったらしいですよ。二トン車が路上を塞いでいたって言ってましたからね」と、待機室でドライバーから聞かされた話しを口にした。 「今日はまっすぐ帰るんだろ?」 狭く、垢臭く、冬でも湿り気の残る更衣室の中で、作業着から普段着に着替えながら橋本は飯島に訊ねた。 「ああ。明日と明後日は非番だしな。いつも荷物の面倒見るばかりじゃなく、たまには家族の面倒も見にゃならんよ。橋本さん、明後日でしょ、あのパレットの荷分けは」 飯島は冬装備の厚手のジャンバーを着込み、ロッカーの最下段から手袋を入れたオープン・フェイスのヘルメットを取り出しながら橋本に声をかけた。 「派遣会社に作業員を三人、頼んでるよ。根性座っている奴らだと良いがなあ」 ぼやくでもなく望むでもない口調で、橋本はシャツのボタンをかけながら呟いた。 一昔前とは異なり、流通業も不況の煽りをくらって正規社員を減らし、人材派遣会社から臨時で作業員を雇うことが多くなっていた。これは流通業界全般、そしてどこの業界でもおなじようなものなのだろう、いろいろな会社からいろいろな噂が流れてくる。 着替えを続けながら橋本は、そんなことを思い返した。 「ま、毎度のことだが来てみにゃ分からんからなあ……それじゃ、事故の無いように」と飯島は言い残し、右手を軽く挙げながら更衣室を出ていった。そして橋本の耳には、隣の事務室でタイムカードを押す音と同時に、小走りに出てゆく飯島の足音が小さく伝わってきた。 残された橋本は自宅で作業着を洗濯するため、帽子も含めてバッグに入れ、ファスナーを閉めた。 橋本は更衣室を出て事務室に行き、タイムカードを押した。がたんという、ひどく投げ遺りな音が、しんと静まり返った小さな事務所内に響き渡った。飯島と橋本、そして立花を残して、ほかの社員はみな六時の定時で上がっていた。遅れ荷の対応で飯島と橋本、そして荷受けフロア担当の立花が今日の最終人員だった。 橋本がタイムカードを押したときに、階下のゲートからシャッターを降ろす音が聞こえてきた。立花だ。橋本はタイムカードをホルダに戻し、バッグを下げてぐるりと部屋を見回しながら階下へと降りていった。その間も、留まることなく閉められてゆくシャッターの、無機質だが伸びのある軋む音は続いていた。 橋本はこの部屋に戻ってくる立花のため、室内灯だけは点しておき、部屋を出た。 大小多くの車が、片側二車線、中央車線をバイパスの橋脚で仕切られた幅広い道路を行き交う。一般乗用車やどこかの会社の営業車、軽自動車から二トン、四トンのトラック、巨大な車両運搬車……さっき受けたコンテナ車の姿もちらほら伺える。排気ガス規制や信号のイエローストップなんぞお構いなしの走りっぷりを見せる彼ら……。 海岸線に沿うように造られた国道が唯一、海岸を迂回している地域に通された、その国道から海岸線にある工業地帯を結ぶための五、六キロの長さの幹線道路。産業道路と呼ばれているこの道路が、橋本たちの勤める流通センターにとっての動脈だった。六、七年前にはこの道路に沿って有料バイパスも造られた。先刻の事故は、そのバイパス、橋本たちの会社への出口手前で発生したものだった。 先刻のトレーラーのドライバーからちらりと聞いた話しでは、四、五台の玉突き事故が発生し、バイパスが見事に塞がれたということだった。 橋本はなるべく鼻呼吸でバス停まで歩を進めた。排気ガスや工場からの空気を吸い込むのを嫌っていた。煙草とはまったく違う、愉しみも安心感ももたらさない空気だといつも思っていた。一昔前の荷受け作業で使われていたガス式のフォークリフトでも、その作業中にはフィルター式のマスクを着けていた。 入社以来この道を使っているけれども、好ましく思うことはなかった。車の騒音や排気ガスは言うに及ばず、無茶な走りのトラックが路肩をうろうろしている迷い犬をはね飛ばしたり、道路を横切ろうとして飛び立った鳩とかち当たる場面にも出くわしているので、橋本自身もいつ何時、それに巻き込まれるか分かったものではないという密かな影を抱いている。 橋本は停留所まで来ると、薄暗い光で時刻を探した。時刻は午後の八時半を廻っていた。目的のバスが来るまで十分ほどある。橋本は、古臭い綿入りのジャンバーから煙草とライターを取り出し、一服つけた。 時折吹きつけてくるガス臭い寒風に肩を縮こまらせながら煙草を吸い、晩飯のことを考えた。 独り身ゆえ、アパートの近くに帰り着いてから弁当屋かコンビニエンス・ストアで買うも良いし、明日は休みなので、たまにはどこかで食べて帰っても良い。そう思うと橋本は、四、五軒向こうの呑み屋に眼をつけた。 あの店に入ったのは何ヶ月前だろうか。確か夏だった。作業で大汗をかいた所為もあったろう、家での缶ビールではなく、無性にジョッキの生ビールを何杯か呑みたいと思い、終業と同時に駆け込むように入った憶えがある。 橋本は停留所に括り付けられた空き缶の吸いがら入れに煙草を揉み消し、初冬の風に揺られているのか道路を通る車の走行風に煽られているのか、所存無げに震えている店先の赤提灯へと足を運んだ。バスの最終便は午後十時半くらいだ。それまでに腹を満たして少しの酔い心地に浸れれば良いと思った。 縄のれんをくぐりながら木の引き戸を開ける。 差し金状のカウンターのみ、十席くらいの小さな掘っ建て小屋のような店構えだった。橋本は、いつも詰めているがらんとした倉庫内の空気の密度とは比べ物にならない濃密さを感じた。店にはすでに二人の、おそらく近所の工作所の作業員らしい風体の男二人が、げらげらと笑い合いながら世間話に興じている。 「あら、一人で来るなんて珍しいわね」と、五十も半ばを過ぎた女将がはしゃいだように声をかけてきた。常連というわけではなかったけれども、同じ会社の仲間が良く来ており、橋本も連られて何度か来ているので憶えられているようだった。 先客の二人組みとは離れた席に座る橋本に女将は、右足をかばう足取りで近づいてカウンター越しにおしぼりを差し出した。暑すぎるくらいのおしぼりで手を拭き、続いて顔に被せて顔の汚れも落とした。 橋本は冷や酒と併せて、がんもどきとごぼ天を二つ、半丁に切られた焼き豆腐のおでんを注文した。芥子はつけなかった。橋本はたっぷりの出汁で食べるのが好きだった。 女将は酒を一合升の中に置かれたコップへとなみなみ、升の半分くらいまで酒を溢れさせて注ぐ。 「足を痛めちゃったからねえ、あんまり動かなくても済むように、多めに入れとくわ」 女将はにこにこと笑みを浮かべ、そう言いながらもふらふらした足取りと手付きで升を橋本に手渡した。 「おかみさん、狭い厨房でそんなんじゃあ、大変なんじゃないの?」 「歳も歳だから治りが遅くてねえ。でも、お客さんは知った顔が多いから、そんなでもないわ」 女将はくつくつと静かに音を立てるおでん鍋を眺め、橋本の注文したネタを小皿に取り分け、それを手渡しながら応えた。 「立ったついでにこっちにもお代わり」と、二人連れの男の一人が酔い声を上げながら、コップ升を差し出した。 「ほらね、いちおう気を使ってくれてんのよ」 女将は笑いながら冷蔵庫に仕舞わずにいた一升瓶を持って、その男の前に移った。 橋本はがんもどきに箸を入れた。箸を入れるたびに染み出る出汁が小皿に溜まる。がんもどきを三つに割り、ほかほかと湯気を立てるその一切れを口に運んだ。ゆっくりと噛み、練り物の甘味と出汁の旨味を口のなかに含ませる。続いて口中に広がる出汁とがんもどきの味を洗い流すように一口、コップから溢れる冷や酒を啜る。 今日も無事故で作業を終えることができた。多少の遅れはあったものの、皆、巧く動いてくれた。シャッターを閉めて閉館作業を終えた立花も、卒なく帰宅していることだろう。橋本の携帯電話は鳴らない。それが何よりの確証だった。 橋本はそう思うとほっと口元を緩め、一心地ついたところで何気なく厨房の女将を眺めた。そして足を庇いながら立ち回る彼女の姿にふと、十年以上前に起きた倉庫内事故の記憶を蘇らせていた。 佐藤と金本……入社して三年目か四年目、同期入社のふたりの若手作業員だった。佐藤がリフト操作時にバックしながら転回していたとき、空のフォークでその傍を通りかかった金本を跳ね飛ばしてしまった。後方確認を怠った所為だった。 ひどい怪我だった。 金本はプラットホームを走り抜けようとしていたため、ちょうど下ろした軸足の左に勢いのついたフォークが当たり、膝の外側の大部分と腓骨と脛骨を壊し、動脈こそ破られなかったものの静脈からの激しい出血と、その後の動向を左右することになった脛骨神経と総腓骨神経の断裂……。何度か手術をしたものの、結局神経断裂は治らず、左足は膝から下が麻痺してしまった。これは物流会社に務める者としては致命的だった。幸い保険会社からの損害賠償と労働災害の補償金は降りた。しかし会社の戦力とは成り得ず、就業規則を楯に職を離された。 金本を見舞ったときのことを、橋本は今でも鮮明に憶えている。事故から二週間ほど経った頃だ。もう少し早く見舞いに行きたいと思ってはいたけれど、手術後の静養のために面会は避けられていたのと、会社から今後の対応措置が出てこなかったために叶えられずにいた。 個室のベッドに身を横たえる金本に対し橋本は、何の慰めの言葉も励ましの言葉もかけてやれず、ただ、呟くような声を聴くだけだった。橋本がそろそろ帰ろうかという時分、金本は、佐藤はどうしているのかを問いかけてきた。 佐藤もまた、澱みのなかにいた。 自身の不注意で同僚が何ヶ月もの入院生活を送ることになり、悔やみに悔やんでいた。そしてその自らの不注意が業務上過失傷害に問われ、書類送検される瀬戸際に立たされていた。けれども会社にとって送検者を出すということは逆に、不利益以外の何物でもないので佐藤の扱いに腐心していた。 そして佐藤自身は免許を停止され、今現在は会社から自宅謹慎の扱いを取られているけれど、いずれは会社を去らざるを得なくなるだろう。 橋本はかいつまんで話しをし、それを聞いた金本は、 「あん時、俺が飛び出さなきゃあ……」と、口元を歪ませて呟いたきりだった。そして橋本が病室を退室するときに、 「橋本さんにもいろいろ迷惑かけちまって、すんませんでした」と、金本はベッドの中から右手を挙げて、絞るように声を出した。 そんな金本に、 「お前が気にすることはないよ。それよりもお前たちをうまく助けられるかどうか、俺には……」と、橋本は言葉尻を濁しながら病室を後にした。 |
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