■イムコ・ライター普及委員会(2003.11.4)■
 
 オイルライターにイムコという銘がある。英文字で書くと「IMCO」。正しくは「IMCO-TRIPLEX」。オーストリア製である。調べてみると、1918年から製造を開始し、第二次世界大戦ではドイツ軍で正式採用されていたという。アメリカのジッポー社は1932年創業なので、それよりも古い。
 ブリキ板一枚を折って畳んでボディを作り、そこに着火用のヤスリを組み入れた蓋と、ボルトアクション式のライフルのようなフリント装填ユニットと、本体分離型オイルタンクとを組み付けた、まこと、1918年から作り続けられているオイルライターとは思えない、粋で精妙な造りに仕上げられている。
 着火方法は蓋を跳ね上げるだけのワンアクション式であり、開蓋と同時に蓋に組み込まれたヤスリとフリントとが摩られる仕組みになっている。ジッポー・ライターのようにツーアクションで着火する方式ではない。このあたりはロンソンなどのオイルライターと同じである。
 シリーズには「ジュニア」と「スーパー」とがあり、基本構造は同じであるが、スーパーには上下スライド式の風防と、雨滴付着防止のためヤスリとフリントとの接点にカバーが着けられており、風雨の中、濡れた指でも安心して着火できるようになっている。ここが、今現在、オイルライターにおいて優勢を極めているジッポーと大きく異なる点である。しかも価格は、ジュニアが七百円、スーパーが八百円である。対してジッポーは千六百円くらいから。安価である点も見のがせない。
 時々、いやしばしば、時として大いに、喫茶店でジッポー・ライターの蓋を開ける軽快な金属音を耳にする。対してイムコ・ライターはシャキッという静かな音とともに着火する。ジッポーは重く、かさばる。対してイムコはブリキ板一枚なので軽く、大きさも百円ライターをひと回り大きくしたほどの大きさである。何より濡れた指でも着火できるので、インドアでもアウトドアでも、時も場所も状況も選ばない(喫煙についてはTPOを選ぶべし)。アウトドアではオイルタンクが本体と分離できるので、何かを炙らなければならないときなど、重宝する。
 唯一欠点と言えば、フリント・ユニットのバネの押し上げが強すぎるためにフリントがすぐに磨り減ってしまうことと、オイルタンクが小さいので、これまたすぐにオイル切れになってしまうことである。しかし、どちらもこまめにチェックして使えば問題ないのだ。欠点以上に優れている機能美を持つライターなのだ。
 今まで何個このライターを配ったか分からない。最低でも二十個は配り歩いているだろう。「オイルライターを使うのなら、ジッポーなんかよりこれを使いなよ」と差し出し、各部の使い方と前記した造りの精妙さについて、なんど蘊蓄を語ったことか。
 そう、私は独り密かに「イムコ・ライター普及委員会」を騙り、夜な夜な、大抵は酒場で、ライターに困っている見知らぬ人にイムコを差し出しながら耳元に囁くのだ。
「ジッポーなんかよりこれを使いなよ」と。
 しかし、フルードとフリントはジッポー社のものを使わざるを得ない。この点がいちばん癪に障り、そしてこのことについて、夜な夜な歯ぎしりをしてもいるのだ。
 

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