| 甘い記憶 … 2 … |
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「遼〜!おっはよう!」 学校に入ったところで後ろから明るい声と背中をポンと叩かれた。 振り向くと親友の大伴 咲(おおとも さき)がにっこり立っている。 金髪に近いほど染めた髪を耳の高さで2つに結び、ゆるくかけたパーマがふわふわ揺れている。朝からしっかりメイクとセーラー服の短いスカートはイマドキの女子高生そのものだ。 その咲の隣に並んだ遼といえば、校則に沿ったひざ上のスカートに襟元もしっかり留めた模範的な格好。ぱっちり二重の目と白い肌にはメイクの影もなかった。 腰まであるストレートの髪は咲よりも暗いものの栗色。しかし、同じ色の長いまつげと瞳が染めていない証拠を表していた。 「おはよう。咲ちゃん」 「…顔色悪いね。まだ調子悪い?」 「そんなことないよ。もう風邪も治ったし」 青白い顔で微笑む遼を、咲は心配そうに見つめた。 遼はこのところずっと夏バテと風邪が続いていた。食欲もなく、学校で倒れることも多かった。 そしてあの夢による寝不足――咲が見てもつらそうだった。 「薬だけでも飲めばいいのに」 「うん…でも、お母さんが嫌うから」 唇を尖らせて言う咲に遼も肩をすぼめる。 遼の母は市販の薬にトラウマがあるらしく、夏風邪の遼に市販の薬を飲ませようとしなかった。 遼も市販の薬に頼る気はなさそうだ。 「1回くらい病院に行ったら?」 「夏バテで病院に行っても仕方がないよ。それに…もったいない」 「……」 何が、と咲には聞けなかった。 お互いが親友だと認め合った頃、この高校に不似合いな遼に、なぜこの学校に来たのかと聞いたことがあった。その時遼は、あっさりと言った。 家から近く、バイトが公認だからと。 10歳の時、飲んだくれの父が蒸発し、それからずっと母の恵が夜の仕事をしながら女手ひとつで遼を育てた。貧しいながらも母子支えあって生きてきた。中学を卒業したら働くと言った遼に、恵はせめて高校までは行きなさいと譲らなかった。遼は悩んだあげく、この学校を選んだ。入学してからは、夕方から仕事に行く恵を見送ると家の近くのコンビニで恵が帰ってくる深夜までバイトをするという日々を過ごしている。 今日もこの青い顔でバイトに行くのだと思うと、咲の顔も晴れなかった。 教室に入ると、遼はまだ何か言いたそうな咲と別れ、自分の席に着いた。 ほとんどの席がまだ空席だ。 今日は体育館で合同朝礼だから面倒くさがって遅刻してくる人は多いだろう。 遼は周りをぼんやり見ながら鞄から教科書を出していった。 「やっぱり1回くらい病院行ったほうがいいよ!」 遼の前にある誰かの席に咲は座りながら訴えた。 まだ続いていたのかと遼は呆れた顔で咲を見る。 「だって、夏バテにしたって長すぎるもん。案外、検査したら重ぉい病気かもしれないよ!」 咲のあまりに真剣な顔に、遼はおもわずクスリと笑った。 「大げさだよ。ただの夏バテだよ?」 遼は一見儚そうに見えて、実は今まで風邪すらひいたことがない健康体そのものだった。初めての夏バテに自分が一番驚いている。 「…美人薄命って言うじゃん」 じとーっと遼を睨む咲。 「薄命って…縁起でもないことを。私、美人じゃないし」 「遼は…」 咲が何か言おうとしたが、その声をチャイム音が遮った 『合同朝礼を始めます。生徒の皆さんは、体育館に集まりましょう』 ピンポンパンポーンという軽快な音で締めくくった放送に遼と咲は席を立つ。 「本当に大丈夫?教室で待ってたら?」 「大丈夫!それにもうすぐ夏休みだしね。今日くらい頑張らないと」 「夏休みかぁ。早く来ないかな〜」 近づく夏休みを思ってニヤける咲の後ろで話がそれた遼はホっとした息を吐いた。 「37.8℃。遼ちゃんの微熱にしては高いわね」 体温計の目盛りに保険医は眉をよせる。 「すみません…」 真っ白なベッドの中で遼はシュンとなった。 結局遼は合同朝礼中に貧血を起こして倒れた。咲と保険医2人に運ばれて保健室のご厄介になったのだ。最近は学校で倒れることも多く、いつの間にか名前で呼ばれるほどお世話になっている遼だった。 「西崎さんが謝っても仕方が無いでしょ?まぁ、自己管理は足りないけど」 机で遼の体温を記入していたもう一人の保険医がちらりとにらむ。 「でしょー?先生。遼ったら、大丈夫って言って聞かないのよー!病院にも行かないし!ちょー頑固!」 「咲ちゃん!」 「…遼ちゃん、まだ病院行ってないの?こういう時には注射1本がすっかーと効くんだから!」 「…えっと。…はい。ごめんなさい」 今にも布団の中にもぐりこみそうな遼に保険医も呆れてため息をつく。 「今日はもう帰りなさい。そして病院に行くこと!明日診断書もっておいで!」 「はい…」 「うーん、さすが保健の先生。強い」 妙なところで感心している咲を3人が呆れて見つめた。 |
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