2012年12月議会一般質問一部参考資料

 

江口工博士講演

 

鉱研工業株式会社前社長・工学博士 江口工著書「地下水放射能汚染と地震
東電が見落とした新たな危険」
2012年4月2日発行
より

1. 2. 3. 4.

 

1.

 

 

 

目次


はじめに


第1章  地下水放射能汚染という新たな危険

未曾有の国難から1年

被害を拡大させた大津波

復興は時間が解決する

地下水汚染の恐怖

地下水のメカニズムとは

地表と地下は別世界

高低に関係なく流れる

想像もつかない速さで流れる地下水

第2章  東電が公表を拒んだ福島第一原発の地下構造

日本中に広がった放射能汚染

なぜ、地下水への汚染が未だに危険なのか

水を通しやすい互屑地形

泥岩に対する認識を誤った東京

60本もあった地下水汲み上げ井戸

サブドレーンエ事で使われたセメント注入工法

チェルノブイリでも地下水対策が最重要だった

地下水汚染でキエフが死の町になる可能性も

チェルノブイリが最初の事故ではない

セメント注入工法で防がれた放射能汚染

フランスまで汚染地下水が達したという説も

第3章  地下水放射能汚染を防げ

偽りの「冷温停止宣言」

原発周辺のモニタリング調査が急務

手探り状態だった政府の対応

海への地下水流出を防ぐ

飲み水が危なくなる

福島原発事故対策構想

核廃棄物の地下貯蔵の可能性

その場しのぎにするな

使用済みウランは生まれ故郷に帰す方法も

除染は本当に意味があるのか 

 

第4章  地下水大都市・東京の落とし穴

注目された「ホットスポット」

汚染地下水は東京にもやってくる?!

東京の高い地下水位

皇太子殿下と水井戸

巨大なダムになっている東京の地下

水没した東京駅地下ホーム

地震で危ないのは地下街の水没

第5章  地震と地盤の意外な関係

地震の予知は不可能に近い

地震のメカニズム

断層がある場所に大地震は発生しない

断層の特性を応用した地震防止工法

東京での地震は過度に心配いらない

東海地震を考える

海底探査と地震予知

第6章  3・11以後のエネルギーと日本の未来

エネルギー政策の転換点

既存ダムの再利用という道

地熱発電の可能性

地方活性化につながる「半農半鉱」

 

 

 

まだ幼い小学生の頃、

故郷・福岡県筑後地方に

ほど近い大分県の山奥にある

鯛生(たいお)鉱山から

運ばれる金鉱石が

トロッコから落ちてくるのを集めて、

ピカピカ輝く金鉱にすっかり興味を持ち、

それから早や将来を夢見ていた。
  社会に出て、

鉱山探査の若きエンジニアとして、

アフリカ大陸の南アフリカに

第一歩を踏み出した。

それ以来60有余年の長きにわたって、

いろいろな地下開発関連の調査、

研究に携わり、

ボーーリング機器の製造

そして施工に没頭した。

ゆうに100ヶ国
を超える国々を

東奔西走してきた。

なかでも

旧ソ連諸国には

70回ほど出張し、

北朝鮮にも

3度訪れる機会があった。
 

そのような

「鉱山師」であったが、

あることがきっかけで

チェルノブイリ原発事故
の事故収束に

かかわることになった。

そして、今度はその縁で

2011年3月11日の
東日本大震災による

原発事故の後には、

官邸をけじめ霞が関諸官庁、国会議員
東電の原発関係の役員に福島原発事故対策について意見を求められることになった。
  もちろん、私以外にもそれぞれの分野の専門家が意見を求められたと思うし、具体的
な対策案も出たと思うが、単に「聞き及び」に終始した感があったのは今でも残念だ。
  我が国では初めての大事故で、世界的に見てもアメリカのスリーマイル島やソ連の
ウラルマヤークそしてチェルノブイリ事故くらいしか例がない。原子力発電という仕
組みが開発されてから半世紀になろうとしているが、未だに事故が起きたときの解決
策さえ確立されていない状況なのだ。そうであるから、事故直後のIヶ月は政府も東
電もどうしてよいのか暗中模索の現状だったと推測できるが、かたや事故収束の見通
しも曖昧なままでの「冷温停止宣言」や、被災者の早期帰郷の話が独り歩きしている。
だが、原発事故は決して収束に向っているのではない。大問題は未だに市電によって
隠されたままなのだ。
  では隠されたままの問題とは何か。それは原発立地地点の地下部分の状況だ。実は
未だに放射能に汚染された地下水はなんの対策もとられないままになっているのだ。
現に今年2月、原発冷却水の水漏れ事故が二十数か所に及んでいることを明らかに
し、いずれも冬の寒さによる氷結で送水パイプの継ぎ手が破損していたからだと発表
した。もちろん、そのようなお粗末な配管工事が事ここに至って行われたとは思えな
い。他に理由があるはずだ。
  さて、詳しくは本章で述べているが、今福島第一原発の原子炉基礎基盤は最悪の状 況になっており、原子炉全体の沈下や傾倒が既に始まっているのではないかと大いに
懸念される事例が多数見受けられる。かような疑問は今後も増え続けるであろう。だ
からこそ、ここで地下水汚染問題を世に提起しようと思い立ち、本書を書いた次第だ。
  第1章では地下水放射能汚染と地下水のメカニズムについて解説している。そして
第2章では福島第一原発周辺の地層構造とそこに隠された危険性について解説した。
そして、第3章では地下水放射能汚染を食い止める構想について述べている。さらに
第4章ではその汚染され九地下水が首都圏に到達するとどうなるのか、という点につ
いて述べている。
  さらに相変わらずの地震に恐怖を覚えている方々に、私の永年にわたる地震研究も
合わせて明らかにしたい。
  最近、特に権威ある大学や研究機関が、首都直下型地震について次々と調査結果を
明らかにしている。これらについても私見を述べている。
「あと四年」と言わずとも、地震はいつ起こるか分からない。地震が全く発生しない、
というのはまずありえないし、発生すること白‥体は否定しない。しかし、首都圏での
はじめに
大規模な地震については、そこまで過度の心配は無用なのではないか。これらの点に
ついては第5章で詳しく述べている。
  私は地下構造に関する研究をライフワークとしており、加えて「地震のメカニズム
と予防」、「放射能廃棄物の最終処理」の2つについて研究してきたので、その成果を
公表することができればと考えている。
  最後に第6章では3∴‥一以後の干不ルギー政策について私見をまとめた。その中で
水力発電に隠された可能性について述べている。既存の発電用のダムは長年の利用で
L流からの堆積物で埋まっている状態になっている。昨年9月に奈良県・和歌山県を
襲った台風による土砂災害と同じようなことが日本中で発生する危険性が迫っており、
既存のダム整備は急務の課題だ。そこで災害対策と電力対策を同時に行えるのが既存
ダムの再整備なのだ。
  そして最後に我が国の閉塞した経済の現状打破の私案として、一案を述べている。
長引くデフレ不況で暗いムードが漂い、特に若者の働き場がないという自体は日本国
家として最悪のことだ。「国内鉱山の再開発」、「半農半鉱」というキーワードでふる
さとが明るさを取り戻し、日本再生に繋がっていくことを期している。
未曾有の困難から1年
  マグニチュード9・Oという側洲至ト最人級の規模の人地震であった東日本大震災
から、まもなく1年が経とうとしている。
  3川]H‐14時46分、宮城県の牡鹿半島の東南東沖約130キロメートルの海底を震
源として発生したこの地震は、青森県から千葉県までの広範囲に大きな被害をもたら
した。実に南北約500キロメートル、東西にして約200キロメートルの広範囲に
及んだ。宮城県栗原市では最大震度7を観測し、遠く離れた東京でも震度5を記録し
た。地震直後の交通マヒによる帰宅困難者の問題や、その後の電力不足による計画停
電もあいまって、文字通り「東日本」に訪れた未曾有の大災害であった。
  震災から半年経った9月1-H日の時点で、政府発表による震災における死者・行
方不明者は約2万人(最北では北海道で工人が死亡。最南では高知県で1人負傷
者を出している)、建築物の全半壊合わせて27万戸以上(全壊1111万5163戸、半
壊16万2015戸。他に全半焼284戸、床上浸水1万1576戸、床ド浸水
1万2649戸)、ピーク時の避難者は40万人以上にのぼったと言われる。この震災
における物的被害額は少なく見積もって16兆から25兆円弱と試算されている。
  しかし、あれだけの大地震であったにもかかわらず、地震自体の被害で比べれば
1995年1月17日の阪神・淡路大震災ほどの致命的大破壊には見舞われてはいない。
今回の震災による被害や死者の多くは地震によって発生した津波によるものが大きか
った。21世紀の日本を生きる人々が未だ経験したことのない規模の大津波は私たちの
想像をはるかに絶していた。
被害を拡大させた大津波
16
  震災における死者のうち、津波その他による水における被害者(水死者)は1万2143
人に上る。これは身元が判明している全死者の92・5パーセントに及ぶ。建物の倒壊、
あるいは家具などの転倒、天井の崩落などによる圧死および損傷死は578人で、こ
れは全体の4・4パーセントに過ぎない。加えて火災による焼死は148人で、全体
のI・Iパーセントであるから、いかに津波による死者が多かったが分かるだろう。
  今回の震災は、われわれに水の恐怖をまざまざと見せつけてくれた。阪神・淡路大 地下水放射能汚染という新たな危険
未曾有の困難から1年
  マゲニチリード9・Oという観洲至L辰人級の規棋の人地衣であった束日本大震災
から、まもなく1年が経とうとしている。
  3川H目14時46分、宮城県の牡鹿半島の東南東沖約130キロメートルの海底を震
源として発生したこの地震は、青森県から千葉県までの広範囲に大きな被害をもたら
した。実に南北約500キロメートル、東西にして約200キロメートルの広範囲に
及んだ。宮城県栗原市では最大震度7を観測し、遠く離れた東京でも震度5を記録し
た。地震直後の交通マヒによる帰宅困難者の問題や、その後の電力不足による計画停
電もあいまって、文字通り「東日本」に訪れた未曾有の大災害であった。
  震災から半年経った9月一H日の時点で、政府発表による震災における死者・行
方不明者は約2万人(最北では北海道で1人が死亡。最南では高知県で1人負傷
者を出している)、建築物の全半壊合わせて27万戸以上(全壊r―i万5163戸、半
壊16万2015戸。他に全半焼284戸、床上浸水1万1576戸、床下浸水
1万2649戸)、ピーク時の避難者は40万人以上にのばったと言われる。この震災
における物的被害額は少なく見積もって16兆から25兆円弱と試算されている。
  しかし、あれだけの大地震であったにもかかわらず、地震自体の被害で比べれば
1995年1月17日の阪神・淡路大震災ほどの致命的大破壊には見舞われてはいない。
今回の震災による被害や死者の多くは地震によって発生した津波によるものが大きか
った。21世紀の日本を生きる人々が未だ経験したことのない規模の大津波は私たちの
想像をはるかに絶していた。
被害を拡大させた大津波
  震災における死者のうち、津波その他による水における被害者(水死者)は1万2143
人に上る。これは身元が判明している全死者の92・5パーセントに及ぶ。建物の倒壊、
あるいは家具などの転倒、天井の崩落などによる圧死および損傷死は578人で、こ
れは全体の4・4パーセントに過ぎない。加えて火災による焼死は148人で、全体
のI・Iパーセントであるから、いかに津波による死者が多かったが分かるだろう。
  今回の震災は、われわれに水の恐怖をまざまざと見せつけてくれた。阪神・淡路大
震災での死傷者の90パーセントは倒壊しか家犀や家具のド敷きによる圧死であった。18
.方で、4 2‐本人震災では、先にも記しか最人衣皮7の宮城県栗原巾であっても、圧
死片は。天も出ていない。その他の被災地における圧死者も、直接の死因は津波によ
って流出した瓦傑や家目八のド敷き、あるいは挟まれてのものだったと思われる。
  いずれにせよ、場所によっては波高が10メートル以上におよび、最大遡上高が40・
5メートルにも上ったというから、まさに逃げ場のない状況であっただろう。この津
波によって多くの人命と家屋はじめ貴重な財産が失われてしまったのだ。
復興は時間が解決する
  しかし、この大震災と大津波からの復旧・復興は、いわば時間によって必ず解決で
きることだ。あの阪神・淡路大震災の際も、神戸の街は壊滅状態からわずか数年で、
見違えるほどのきれいで素晴らしい街に生まれ変わることができた。
  阪神大震災の際には、電気はほとんどの地域で3~7日間で復旧が完了し、地下に
埋まっている水道、ガスについてもIヶ月で復旧のメドが立つたといわれている。
津波によって壊滅した町並み(福島県南相馬市鹿島区)

 
 今回の東日本大震災と同様に、震災直後から、全国で復興支援物資の受付が開始さ
れた。阪神・淡路大震災のときと同様に問題だったのは、集められた物資をどのよう
にして避難所へ送るかであった。交通網はいたるところで寸断されていたからだ。ち
なみに、阪神・淡路大震災の際には大量の復興支援物資を早急に送るために、寸断さ
れた道路網の復旧よりも残された道路を優先的に整備する方策がとられ、被災地と大
阪市を結んでいる。
  そして、「阪神・淡路復興対策本部」が、1995年から2000年まで5年間の間、
総理府に置かれ、さらに「阪神・淡路復興委員会」も設置され、前述の対策本部への
提言などで連携が図られた。兵庫県、神戸市といった自治体も復興に向けた懇話会や
連絡会を設け、被災者のサポートにあたった。そのおかげもあって、復興は非常に早
く進んでいった。
  阪神地区には、震災当時、戦災を免れた戦前の老朽木造家屋が密集している地域が
あり、その地区の被害は甚大たった。それら戦前の面影をとどめた地域は、細い道路
が入り組んでおり、それがさらに救援活動を困難にさせた。その反省から、単なる災
害前の街への復旧を超え、道路幅の拡幅など大掛かりな区画変更計画を英断、さらに
地下水汚染の恐怖
緑地を多く取って緩衝地帯を設定するなど、地震に強い都市づくりを計画、短期間の
うちにそれを実現させている。
  ちなみに地震の規模では阪神・淡路大震災、東日本大震災に比較にならないが、今
から90年前、東京を襲った関東大震災によって、東京の下町は壊滅状態に陥った。し
かし、その下町の上野と浅草の間に東洋初の地下鉄が開通しだのは、震災のわずか4
年後であった。
  多くの国がひとたび大災害に遭えば、10年単位でその後遺症に悩み、経済を疲弊さ
せていることに比すれば、日本のこの復興に向けた自己再生能力は奇跡のわざと言っ
ても過言ではないだろう。
  だが、地震による津波によって引き起こされた東京電力福島第一原発の大事故は、
私たちの想像云々で論じられるものでないほどの大問題となってしまった。東北、福
島の地のみならず、日本はもとより全世界が今後の対応に注目しており、特に技術」皿
福島第1原発の水素爆発の瞬間
国を自認している日本の技術面での処
理に関心をもって見守っていることだ
ろう。去る2011年12月16日の記者会
見で、政府は原子炉がすでに「冷温停止
状態」にあるとし、実質的な事故収束を
宣言した。だが、事故からもうすぐ1年
が経とうとしている今日にあっても、原
発事故の復旧対策は未だ暗中模索の域
を出ていないのが実情である。
  あの爆発の光景を見て、すぐに私は
「放射能が空中に飛散するだけでなく、
このままでは地下を汚染し、最悪地下水
が汚染されてしまう。そうなったら大変
なことになる」とすぐに危機感を抱い
た。爆発直後は「炉心溶融(メルトダウ
22
ン)」という言葉が飛び交っていたが、意図的かは分からないが、その後はぱたりと「炉
心溶融(メルトダウン)」という言葉がマスコミから消えてしまった。しかし、この
原発の状況を見れば、メルトダウンを起こし、地下水にまで汚染が進んでいることは
ほぼ確実といっていい状況だった。
  今でも地上で検出される放射能は多くの人々は空中に飛散した放射能が地上に降り
立っていると想像しているようであるが、実は放射能は決して空からだけ飛散してく
るだけではない。むしろより大きな、そして深刻な問題は原発事故によって漏れ出た
放射能が、地下水脈に触れることで地下水が放射能に汚染されてしまうことなのだ。
むしろ地下水放射能汚染のほうが、比べ物にならないほど大問題なのである。
  これまでにも地下水汚染はたびたび大きな社会問題となってきた。
  古くは明治時代、栃木県足尾町にある足尾銅山から出た有毒物が渡良瀬川に流人し、
田中正造が命がけで国に改善を要求した世に言う「足尾鉱毒事件」が有名だ。鉱山か
ら流れ出た有毒物は河川から地下水脈をも汚染し、稲が立ち枯れるなど大きな被害が
発生した。
  また、1960年代には高度経済成長を伴って全国各地で化学工場や半導体製造丁」 23
第1章 地下水放射能汚染という新たな危険
土壌・地下水汚染の実態とその対策
日本地盤環境浄化推進協議会監修「土壌・地下水汚染の実態とその対策」より
24
場が建設され、その工場から流れ出る毒物によって引き起こされた富山県神通川流域
のイタイイタイ病や、熊本県水俣地域の水俣病など、毒物による汚染水の問題は公害
問題として大きな社会問題となった。公害の問題は日本だけの問題ではなく、アメリ
カのシリコンバレーでも大きな問題となった。
  これらは官民協力のもとに汚染水の浄化に取り組み、汚染水の流出防止対策の結果、
最近では一応の収東を見た状況にある。
  しかし、放射能による汚染水については世界的に見てもまだまだ事例が少なく、未
解決の状況にあると断言できる。
  何ゆえ、汚染地下水の問題は深刻なのかと言うと、一度汚染され九地下水は右図の
ように留まるところなく拡散してしまうからだ。地下水と言えば我々の生活には直接
関係のないものだと思っている人が多いと思うが、実は我々が使用している生活用水
の約50パーセントは地下水によってまかなわれている。特に地方部の上水道は一般に
井戸から地下水を汲み上げて各家庭に送られることが多い。大都市においても人口
70万を数える熊本県熊本市では100パーセント地下水に頼っており、首都・東京で
も水道料金抑制のために三鷹市を始め多くの市で地下水を汲み上げた井戸水を使用し
25
ている。
  また、最近では大規模病院などが非常時に備えて井戸水施設を備える事例も多い。
但し、病院の場合は衛生面から数百メートルの深さの深井戸になっている事例が多数
となっている。
  このように考えると、いかに放射能汚染地下水対策が重大かつ緊急の課題であるか
が理解できよう。
  確かに地下水の放射能汚染の問題は事故直後から数度にわたって指摘されてきた。
  例えば4月1日に初めて福島第一原子力発電所1号機の地下水の排水から高濃度の
放射性物質が検出されたことが報じられている。朝日新聞によると、汚染が見つかっ
だのは地下水を地下15メートル付近からポンプで汲み上げ側溝に排水する施設であり、
3月30日午前に採った水からヨウ素131をI立方センチ当たり430ベクレル検出
したという。これは原発敷地境界の法定限界値の1万倍に当たる。地下水が汚染され
ていたということは、原子炉の真下の地下の内部も汚染されていることがはっきりと
したのだ。
  さらに4月13日には日経ビジネスWEB版に興味深い記事が掲載された。「放射能
26
対策、『地下水』を忘れてないか」と題する記事だ。
  産業技術総合研究所の地下水研究グループが発表し九地下水の流れ方のシミュレー
ション結果を用いながら、地下水汚染の危険性を指摘している。
  さらに6月19日にはテレビ朝日がアメリカの原子力大手GEで18年間勤務し、福島
第一原発にも派遣されていた技術者である佐藤暁氏の説を紹介し、原子炉がコンクリ
ートを通過し地下水脈に接触するメルトスルーの可能性を示唆している。佐藤氏によ
ると、コンクリートを通過して地下水脈に接触していると仮定すれば、もはや冷却水
で原子炉を冷却しても意味がなく、高濃度汚染水を大量に増やしているだけと指摘し
ている。
  また、10月24日付けの「フジーサンケイービジネスーアイ」が、原子炉建屋への地
下水流人問題について指摘している。東電の試算では、1日あたり200~500ト
ンの地下水が原子炉建屋に流人しているとみられ、当初20万トンと見積もっていた処
理量が増えるため、作業が遅れるほか、処理に伴って出る高濃度の放射性廃棄物の量
が増えることになる、と指摘している。そして、最も懸念されるのが地下水に汚染水
が流出することであり、原発周辺の地下水は海に向かって流れており、漏れ出せば 27
‐1‐--‐
-1‐
11・‐ ‐‐l‐
--SjIE--- ---
11‐
FざIII
海洋汚染につながる可能性がある、と指摘している。
  いずれも原発丿故による放射能汚染が窄中だけでなく地下空間そして地下水にも及
ぶ可能性があることを指摘している点で興味深い。しかし、これらの指摘は、まだま
だ地下水のメカニズム、地下水の持つ特性と、その特性ゆえの地下水汚染の恐ろしさ
にまで言及してはいない。
  地下水が放射能に汚染されることは、単に原発周辺地域や海洋を汚染するだけの問
題ではない。それは一歩間違えれば、それこそ福島県全域、さらには東京を中心とす
る首都圏まで放射能汚染で取り返しがつかなくなる危険性を秘めたものなのだ。それ
ほどに、地下水が放射能で汚染されることは危険な事態なのだ。東京電力も政府もそ
して一般国民も、その危険性に対する認識がどうも甘いように思えてならない。
地下水のメカニズム
では、そもそも地下水とはどのようなものなのだろうか。
温泉掘削やダム建設、あるいは高層ビルの建設を行う前に、ボーリング調査を行い、
地中の地盤や地質の調査を行う。その際に決まって直面するのは地下水の問題だ。こ 30
のたびの福島第一原発の事故による放射能の問題も、実は地下水の問題と密接に関わ
っている。
  地下水とは、文字通り「地下にある水」のことである。地下水ができる過程はいろ
いろとあるが、一番分かりやすいのは雨や雪として地表に降り注いだ水が地面にしみ
こみ、地下水となるといった例である。一般に雨が降れば、その2分のIが地下へ浸
透し、残りの2分の1は海へと流れると言われている。
  地下水は地球全体で約820万立方キロメートルあり、それは地球全体に存在する
水のO・66パーセントを占めている。O・66パーセントというと少なく聞こえるかも
しれないが、これに比べて湖沼の水はO・01パーセント、河川の水にいたってはO・
0001パーセントに過ぎず、残りは水資源として利用できない氷河や海水であるか
ら、地下水の存在が人類にとって非常に大切なものかが分かるだろう。
  地下に溜った地下水は、ただそこに留まり続けているわけではない。地下水は「涵
養」、「流動」、「流出」という三段階で常に動き続ける。実はここに今回の原発事故に
よる放射能による地下水汚染の恐怖がある。
  まず地表に降り注いだ水は地面を浸透して地下水になる。これを「涵養」と呼び、
その地下水はゆっくりと地中の帯水層を移動(「流動」)し、最後は湧き水として地表
に湧き出たり、河川に流れ込んだり、井戸水として人間に汲み上げられるなどして地
表に「流出」する。このようにして地下水は一箇所に留まっているわけではなく、時
間をかけて移動している。
  私たちは決して体感することはないけれど、この地球はものすごい速さで自転して
いる。1日24時間で地球の円周約4万キロ進むというものすごい速さで回っているの
だ。その自転によって生じた力が地下水にもかかり、絶えず動き回っていると考えて
’V’V
地表と地下は別世界
  地下水は絶えず動き回っている。ゆえに地表では水が豊富だけれども地下水は乏し
いという地形もあるし、逆に地表は砂漠化して水がまったくないアフリカの砂漠地帯
でも、地中を掘れば豊富な地下水が存在するという事例はたくさんある。
  私は長年の間、世界各国でボーリング技術の技術指導や、井戸の掘削を行ってきた。32
特にサハラ砂漠のあるアフリカの地には何度も直接足を運んでいる。
  かつて日本鉱業(現JX日鉱日石エネルギー)がザイール (現・コンゴ民主共和国)
で行ったムソシ鉱山の開発計画に関わったことがあった。日本鉱業が鉱山を開発する
にあたり、最初のボーリング調査を私か担当した。
  鉱山で鉱物を採掘し精錬するとなると、大量の水が必要になる。そのため日本鉱業
は鉱山開発と同時にダム建設を計画していた。しかし、年間降雨量が100ミリにも
満たない地でのダム建設はそもそも無謀な話だ。そこで当時からアフリカ各地で井戸
の掘削をやっていた経験から、私はアフリカの大地の地下には、地表とは異なり多く
の地下水が存在している場所があることを知っていたので、水の確保はダム建設では
なく地下水の汲み上げで対応すべきだと提案した。その結果、鉱山周辺にある地下水
脈にたどり着く井戸を掘削することに成功した。
  なぜ、地下水の汲み上げを思いついたかと言うと、このムソシ鉱山から程近い位置
にある、ザンビア共和国北部のバンクロフト鉱山では、坑道の中に入ってみると、な
んと毎分230立方メートルもの水がそれこそ川のように流れているのだ。一方地上
ザンビアとジンバブエ国境にあるビクトリア滝。この滝の水はアフリカの
サバンナ地帯の地下水へ繋がる。(写真=ザンビア大使館)
は気候的には雨は非常に少なく、非常に乾燥
した土地だ。にもかかわらず、地下では川の
ように水が流れているのだから、非常に不思
議なものである。バンクロフト鉱山の近くに
は大きな湖があるが、実はこの湖はこの周辺
の地下水が湧き出て形成された湖であり、こ
の湖がザンビアとジンバブエの国境にある世
界第二の滝・ビクトリアーフォールズ (ビク
トリア滝) の水源にもなっている。
  当時もそして今も、多くの人は「アフリカ
は水のない不毛な上地だ」と思い込んでいる
方が多い。しかし、鉱山採掘の現場にいると、
そのイメージを根本から覆すような事例がた
くさんあるのだ。
  ちなみに、この湖をとりまくようにゴルフ 33
コースが造られており、私も鉱山開発が縁で何度かプレーをしたことがある。アフリ 34
力らしく、コース内には野生動物が行き来しており、ここのゴルフ場では、もしゴル
フボールがカバの足跡に入っても、ペナルティーなしでボールを移動できるというロ
ーカルルールが存在している。このようなローカルルールは他にないのではないか。
  なお、日本鉱業はムソシ鉱山及びその近くのキンセンダに鉱山を開発する計画だっ
たが、あまりの地下水の多さに、結局採算が合わず断念することになった。しかし、
地下水の扱いにくい特性を知る上ではいい経験となった。
  アフリカ大陸を代表するサハラ砂漠でさえ、約100メートルも掘れば、十分地下
水にたどり着くことができる。砂漠の真ん中にオアシスが出来るのも、砂漠の地下に
は豊富な地下水があって、それが地質条件に変化を起こし、地下水位が高くなって圧
力によって湧き出るからだ。砂漠で雨が降らないからといって、地下に水脈がないわ
けではない。このように、たとえ地表は乾燥していても、地下の世界は地表とは全く
違う次。几で水が存在し、それが縦横無尽に動き回っているのだ。
  既に述べたが地ド水というのは、地球上を対流しているわけだ。「東京で井戸を掘
ると、ソ連の赤い地下水が湧き出るよ」という話は、かつて私か笑い話でしたもので
ある。もちろん色はついていないが、今、日本で湧き出ている水は、もしかしたらシ
ベリアの大地に降り注いだ雨水が地下を対流して日本にたどり着いたとしても全く不
思議な話ではないのだ。
高低に関係なく流れる
  地表の場合は、河川は高いところから低いところに流れるというルールは決まって
いて、あとは北に流れるか南に流れるか、あるいは東に流れるか西に流れるか、であ
る。ところが、地下水の場合は東西南北の流れに加え、地下から地上あるいは川底に
向かって湧き出たり、逆に地質の浸透能(水を浸透させる能力) の加減によって縦横
無尽に動き回る。だから地表では山から海に向って水が流れていても、地下では逆に
海側から山側に向けて地下水が流れていることも当然ありうる。
  さらに火山やプレートの動きで地形に変化があると、それに伴い地下水脈も変化し
ていく。だから火山の噴火や大地震によって、これまでの地下水の動きと、180度異
なる流れ方をしたりする。例えば福島県いわき市では震災後に市内で新たな温泉が湧 き出し、これまでの温泉も泉量が増加したと話題となったが、これも地下水の動きの 36
変化によってなされたものだ。
  地球の内部の構造は、まず地球の核(コア)ではたえず核爆発が発生し、高温のマ
グマが存在している。その外側にマグマがゆっくりと冷えて固まった深成岩が覆い、
その外側が表土になる。また、火山からは噴火によって地中に出たマグマが急速に固
まってできた火山岩や、地表の川や海の水の流れで形成された堆積岩、火成岩や堆積
岩に何らかの変成作用が加わってできた変成岩などさまざまな岩石によって地中そし
て地表は成り立っている。普段の生活の中では感じることはないが、この瞬間も地球
の内部ではたえず核爆発が繰り返されているのだ。
  先はども述べたが、この地球はものすごい速さで自転している。自転の速度は赤道
付近で毎時1700キロメートルの速さというから、実はものすごいスピードなので
ある。当然その自転の力は地中の地下水にも影響を及ぼす。だからアフリカの砂漠地
帯のような雨がほとんど降らないような場所でも水が湧き出るのだ。
想像もつかない速さで流れる地下水
  では、地下水はいったい、どのくらいの速さで移動するものなのだろうか。
  地下水の流れは、地表を流れる河川と同じように地球に働く重力によって左右され
る。原則的には先に述べたように水位の高い所から低いところに向って流れている。
しかし、数万年の長い年月を経て作られた地層は非常に複雑で、水を通しやすい地層
や通しにくい地層がいくつも重なっており、しかもそれが地震やプレートの動きで沈
み込んだりして波打っている場合もある。そのため高いところから低い所へ流れるも
のの、その流れは地形や地質の状態によって大きく変化する。
  地下水の流れは地表の河川に比べれば、流れる速さは遅い。それは地下水は地中の
砂や傑、粒子などの小さな隙間を時間をかけて浸みだすように流れていくからだ。一
般的に地層の浅いところにあり、受ける圧力が少ない「不圧地下水」のほうが、地層
深くにあり圧力を受けている「被圧地下水」に比べ早く流れる傾向にあり、河川の近
くを流れる地下水は、河川の流れと似た速さになる傾向があるという。
  また、地下水が多く存在する地層のことを「帯水層」と呼ぶが、この帯水層を流れ
る地下水の流速は一日に数センチメートルから数百メートルに及ぶものもある。
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  また、後に述べるが福島第一原発周辺は地下水が豊富な土地であり、水の浸透能も 38
よい。つまり、地下水がたまりやすく、流れやすい地形でもあるのだ。
  地下水は、地表から直接目で確かめることができない。しかも、流れは非常に複雑
なので、その全貌を把握するのは非常に困難なのである。だからこそ、後に述べるよ
うに早急に福島第一原発周辺のボーリング調査を行い、地下の状況をつぶさに調べ上
げ、地下水汚染が進んでいないかを調べる必要があるのだ。
  東電が公表を拒んだ福島第一原発の地下構造…………
日本中に広かった放射能汚染
  ここまで地下水とは何かについて簡単に説明してきた。では今回の原発事故と地下
水汚染がどのようにつながっていくのか。そのメカニズムを考えていきたい。
  2011年3月14日の福島第一原発での水素爆発によって、大量の放射能が空中に
拡散した。当初はその被害の状況を政府や東電はひた隠しにしていたが、1年が経と
うとしている今になって、徐々にその実態が明らかになってきている。東京電力は、
事故は収束に向フていると必死でアピールしているようであるが、依然として福島原
発事故が原因である放射性物質検出のニュースは後を絶だない。これは未だに原発か
ら放射能が放出され続けていることの証ではないか。
  昨年、千葉県柏市の市有地の土壌から高濃度の放射性セシウムが検出されたことは
大きなニュースとなるとともに、首都圏に住む人たちに大きな衝撃を与えた。]11月29
日付けの産経新聞によると、環境省は、検出されたセシウムは東京電力福島第一原発
事故で放出されたものとみられ、付近の側溝の破損箇所から雨水が漏れて蓄積した可
能性が高いとする中間調査結果を発表した。また、検出地点の土質は周辺と同じで、
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3月20日から1ヶ月の間に福島第一原発から放出されたセシウム137につい
て、各自治体が計測した降下量データを元に算出したもの。福島第一原発
から飛散した放射性物質は、東日本全域に広がったことが分かる。但し、
データには水素爆発を起こして大量の放射性物質が放出された頃のデータ
が反映されていないので、実際はこのデータより深刻な事態になっている
ことが予測される。
他の地域から持ち込まれた可能性は低く、最高値は空間線量が高さIメートルで毎時 42
4Λ11マイクロシーベルト、土壌が側溝付近の深さ5~10センチでIキログラム当た
り約45万ベクレルだったという。さらに10月下旬の調査では、深さ約30センチの地中
からIキログラム当たり27万6000ベクレルのセシウムを検出していたことが明ら
かになった。
  福島原発から200キロも離れた首都圏の一角、しかも原発事故から半年以上も経
っているにもかかわらず、これほどまでに高濃度の値が検出されたことに、驚いた方
も多いはずだ。なお柏市で検出された放射能は、単に空中からの放射能飛散だけに原
因があるのではないと私は推測している。
  むしろそこには放射能に汚染され九地下水が混入しているのではないだろうか。

 

 

 

 

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